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夏の夜の食事会には悪魔が潜む

hitabon    長男  次男 
2011.08.05   [日記]



世の中の出来事は、個々の様々な事象の連続であり、またそれらの積み重ねである。
それは空を泳ぐ何層もの雲が重なり合い、一つの新しい雲を作るが如く。

今回は4つの私の手記と、私達家族の夏の夜の物語を記す。
4つの手記の中に記された出来事は複雑に絡み合い、その結果として私達家族の夏の夜にある厄災をもたらす。
これを読んでくださる皆様には、その厄災を予想しながら4つの手記をお読み頂き、そして実際に何が起こったのかを本編で確認して頂きたい。

目次
手記1.私が財布をポケットに入れない理由
手記2.恒例の食事会
手記3.今月のお小遣いが厳しい訳
手記4.次男の手癖が悪い
本編. 私と家族の夏の夜の食事会


手記1.私が財布をポケットに入れない理由
私は、ズボンのポケットに財布を入れない。理由は単純で、財布がかさばるからだ。小銭、カード、レシート等を財布にしまい込んでいるため、ポケットのスペースに財布を入れるには厚みがありすぎるのだ。
だから財布は鞄に入れて持ち運ぶ。私が普段愛用している鞄は、肩から斜めに掛ける黒い鞄だ。その中には財布を筆頭に、タオル、メモ帳、目薬等、ちょっとしたものを常に入れてある。
家族で何処か出かける際は、その鞄だけを持ち運べば良い。その中に必要な物が全て詰まっている。
ただし財布に関しては、若干話しが異なる。会社へ行く際は、斜めがけの鞄とは異なる、大きめの黒い鞄を使っているからだ。出社する際は財布を必ず斜めがけの鞄から大きな鞄に移し替える。そうして家族で遊びにいく際は、大きめの鞄から斜めがけの鞄に財布を移し替える。これは極めて重要な行為であり、これを忘れると外出先で無一文の状態になってしまう。とは言え、家族で出かける際に財布を忘れたとしても、恐らくそれほど困らないだろう。当然、妻も財布を持って出かけているからだ。


手記2.恒例の食事会
もうすぐ夏のボーナスが出る。我が家ではボーナスが支給されると、少し奮発した外食へ赴く。
今回はある中華料理店へ食べに行こうと、前々から家族で話をしていた。そこは私の家から車で30分走らせた所にある。近くにコンビニもないような片田舎の住宅街にひっそりと佇む店だ。車を駐車するのにも近くのコインパーキングに停める必要があるくらいで、近所の学生や家族しか食事しないような雰囲気を持っていた。しかしながら味は絶品で、そこで出される巨大な肉の溜りから成る黒酢酢豚が、私も妻も特にお気に入りだった。子供達も外で御飯を食べると聞いて、その日をいつかいつかと心待ちにしている。もうあと数日でボーナスだ。


手記3.今月のお小遣いが厳しい訳
自分の財布の中身を確認して、溜息をつく。中身が寂しい。その理由は明白だ。今月は本を買いすぎた。会社帰りにアイスを買いすぎた。頑張っている自分にご褒美と、昼飯をワンランク上げすぎた。
財布の脇のお札を入れる部分を再び覗き込む。何度見ても5000円札が一枚入っているだけだ。それと財布の小袋の部分には小銭が少々。
節約しなければならない。部屋で一人そう誓い、財布を斜めがけの黒い鞄の中に滑りこませる。


手記4.次男の手癖が悪い
最近、1歳半の次男の手癖が悪い。手癖が悪いと聞いて何を想像するだろうか?玩具を散らかす。食べ物で遊ぶ。家を汚す。普通これらの事を思い描くだろうが、家の次男の場合はそういう事ではない。彼は財布をとる。
先日こんな事があった。平日の夜、部屋の片隅で次男が一人で黙々と遊んでいた。何をしているのだろうかと私が覗くと、彼は妻の財布で遊んでいた。近くを見渡してみると、なるほど、妻が普段使用している赤い鞄が無造作に床の上に置かれている。恐らくそこから勝手に抜き出して、遊んでいたのだろう。私は次男に、これは遊ぶものではないと諭し、財布を妻の鞄の中に戻した。
すると次男は再び妻の鞄の元へやってくる。そしてせっせとその中身を物色する。そして財布を手に取ると、部屋の片隅へ再び駆けて行った。妻の財布をいたく気に入っているようだ。妻の鞄の中には、車中で子供が騒いだ時にあやすための小さな玩具がいくつか入っていたが、それには目もくれず財布だけを抜き出したのだ。一体何が彼を財布へと掻き立てるのか。私には分からない。


本編. 私と家族の夏の夜の食事会
辺りに少しずつ夜の気配が溶け込み始めていた。昼間の強烈な暑さは木々が落とす闇の中へとひっそりと吸い込まれる。
今日は待ちに待ったボーナスの日だ。長男が私のスボンの裾をひっぱり大きな声をあげた。
「早く、お外で御飯食べにいくよ」
私は笑顔で頷くと玄関へ向かう。
今日は、夕飯を例の中華料理店で食べて直ぐに家に帰ってくる予定になっていた。時間にして2時間から3時間といったところだろう。今日は食事だけなので持ち物は必要ないと、愛用している斜めがけの黒い鞄を机の上に残し、玄関の扉を開けた。
「ねぇ、子供の水筒を持った?」
一足先に玄関の外にいた妻からの呼びかけに、私は振り返り部屋の中を見渡した。部屋の隅にドラえもんが描かれた青い子供用の水筒が転がっている。うちの子供は何処へ出かける際にも、この水筒を持参する。中身は大抵家で作った冷たい麦茶。暑い夏、いつでも水分補給が出来るようにと持たせているのだ。私は水筒を手に取り、そのままそれを抱えて家を出ようと思った。
しかしはて、このまま水筒を手に持って移動すると片手が潰れてしまうので不便だと思い直し、いつもの斜めがけの黒い鞄に水筒を押し込み家を出ることにした。

お座敷で長男が餃子を口に加えながら、窓の外を行き交う車の色を一つ一つ大声で叫んでいる。次男は慣れない手つきで、目の前のテーブルに置かれている炒飯をレンゲでじゃぶじゃぶと食べている。隣に座っている妻が、次男がこぼした御飯粒を拾い上げ、テーブルの隅に隔離する。私はそんな家族を見ながら、目の前に置かれた巨大な肉塊の中央にそっと箸をいれ、かの偉大なモーゼのように肉と肉を左右に切り裂き、その間に道を作った。その道はすぐに周りにたゆんでいた、どろりとした黒い酢豚のソースが埋め尽くす。
「そのお肉、おっきいね。それ食べたら、お腹がはれつしちゃうよ」
次男が目を丸くしながら、私の一挙手一投足に目を見張っていた。

一時間程が過ぎた。皆お腹が一杯になり体が鉛のように重くなっていた。
「よし、帰ろうか」
私の声に、家族全員が立ち上がる。私は斜めがけの黒い鞄を掛けると、子供達の靴を履かせ始めた。
会計はいつも妻が行う。妻を先に会計へと向かわせ、私と長男、次男は大抵、後からゆっくりついて行く。私達が妻の元へと辿り着く際には、会計は済んでいるのが常だった。
しかし、今日は違った。
彼女の元へ向かう私達を凝視しながら、会計のカウンターの前で妻は立っていた。
「どうしたの?」
私が尋ねると、妻は自分の赤い鞄をがさこそと探りながら答える。
「財布がないんだよね。もしかすると次男が昼間遊んでいる時に抜き出して、部屋の中に置き忘れてきたのかもしれない」妻は鞄を探るのを諦め、そして私に続ける。「だから、今日はお金払ってくれない?」
「え…」
絶句した。私の財布。
もともと今日は鞄自体、ひいては財布自体を持ってくる予定もなかった。出かける直前、あの子供の水筒を持っていくというあの出来事、あれがなかったら完全に持ってきていなかった。
危なかった。あれに救われた。

私は斜めがけの黒い鞄のチャックに手を掛ける。
だが、まだだ。私が会計を支払うには、まだいくつかの関門が残っている。
今日、私は財布をこの鞄に入れたのだろうか。仕事用の鞄から、この斜めがけの黒い鞄に移しておいただろうか。
私はゆっくりと鞄のチャックをあける。中に手を突っ込む。

持ち運び用の黒いペンケース。違う、これではない。
携帯の予備用バッテリー。違う。これでもない。
プラレールの黒い機関車。違う、誰だこれを勝手に入れたのは。

私は小さい頃から、ドラえもんが焦って道具をだそうとした時、全然関係ないものを四次元ポケットから周囲にまき散らしているシーンを何度も見てきた。
どんだけ焦っているんだ、と私はずっと彼を馬鹿にしてきた。しかし、今なら分かる。ごめん、ドラえもん。そういう事、あると思います。

しかし多くの厄災が詰まっていたこの斜めがけの黒い鞄の中。その奥には僅かな希望が残されていた。
あった。私の財布が。そうだ、念のため財布を会社用の鞄からこちらに移しておいたのだ。素敵な過去の自分にうっとりした。

だがまだ終わっていない。まだ財布があっただけ。いつだって肝心なのはお金だ。私はレジの黒い表示板を見た。緑色の数字が5400円を形作っている。思ったより高い。
そしてもう一つ重要な事がある。この店は現金しか通用しない。そんな状況において、この絶妙な金額は危険すぎる。なぜ神様はこうも私に試練を与えるのだ。なぜ。なぜ。
財布のお札の部分を確認する。予想通り、そこには五千円札がたった一枚。そう、ここまでは予想通りだ。
問題はその先、小銭がいくらあるかだ。

私は小銭の小袋の部分を封している部分を開けた。中華料理屋の雑踏の中でパチンと高い音が響く。
いつの間にか妻がこちらを覗き込んでいた。長男も、次男も黙ってこちらを見ている。さらにはレジの店員までもが固唾を飲んでこちらを見守っていた。
気がつくと私の周囲1メートルが緊張の渦の中にいた。誰も声を発することが出来ない、深く暗い海の底。ここで地上へと浮上する僅かな空気を私が見つけださないと、一家もろとも海の底、さらには地のそこまでも沈んでいってしまう。

一つ気がかりな事があった。今日に限って、小銭部分が非常に薄かった。経験上、この厚みでは小銭があっても4枚から6枚程度と予測できる。
だが、勝つんだ。ここで勝つんだ。あと400円、勝てない勝負ではない。
もし負ければ、私はマグロ漁船に乗って、遠い北の海へ行かねばならない。
私の背後で黒い悪魔がひっそりと息をしているのが聞こえた。

私は震える手で財布の小袋の中へ、親指と人差し指を入れる。

そして、

まず一枚。100円玉。
これは幸先が良い。良し、このペースで行こう。

二枚目。10円玉。
なんでお前は茶色いんだよ!シルバーよ、時代はシルバーなのよ。

三枚目。50円玉。
確かにシルバーと言ったが、少し火力不足だ。現在160円。命が助かる400円までまだ届かず。これではまだ届かないんだ!!

四枚目。100円玉。
きた!よし!!これで260円。あと140円。

私は最悪の事態を考えていた。何故か?残り140円。そして先ほどの財布の中身の感触では、残りの硬貨はあと一枚。一枚の硬貨で140円を埋めるには、あれしかない。そう、たった一つの可能性しかないのだ。
一円玉、5円玉、10円玉は言うに及ばず、50円、100円でも駄目なのだ。そうあの一枚が必要。どうしてもあの硬貨を。この最後の土壇場で。

私は目をきつく瞑り、指を財布の中に突っ込む。最後、これが最後の一枚。

五枚目。500円玉。
ここにきて、まさかの500円玉。通称ワンコイン。奇跡の硬貨。勝った。勝ったんだ。私はこの戦いに勝った。合計5760円。これで悪魔が佇むこの中華料理店から脱出できる。

周りの緊張の糸が弛緩したのが分かった。遠くに追いやられていた店内のざわめきが、唸りを上げて私達の元へ戻ってきた。
大丈夫。みんな大丈夫だ。食べるだけ食べて、お金がありません、そんな事は起きない。私は大人だ。大丈夫。マグロ漁船、グッバイ。

私も、妻も、長男も、次男も、笑顔で中華料理店を出た。財布に残ったのは360円。この僅かな残額が戦いの激しさを物語っていた。
笑顔で私達は車へ乗り込む。「家に帰ったら、この奇跡にビールで乾杯しようか?」車のエンジンをかけながら、妻と笑いながらそんな事を話していた。

だが。

この時の私は知らなかった。

たった一分。

あと僅かたった一分で、

この笑顔が、

私達家族の幸せな時間が

跡形もなく消え去ることを。

そう…

コインパーキングの出口で¥400と表示されるその瞬間まで…

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コメント

パチパチっ!!!

おめでとう!無事のご帰還。でも・・・結局コインパーキングの支払いはどうなったの??
はて・・・車を置いて帰ったとか?

続きはまた教えてもらえるのかしら~。

ドラえもんに謝る心、とても重要です!
えらいっ^^

No title

ポテさん
>>結局コインパーキングの支払いはどうなったの??
最寄りのATMを探す旅に出ました

私もドラえもんが欲しいです。
そうしたら、いっぱい子供の面倒を見てもらえるのに…(ちょっとだけ方向性がおかしい)

40円の悪魔

ハラハラどきどきしたよ~
こんなオチがあるとはつゆしらず。。
マグロ漁船グッバイ!
茶色の悪魔カムバッグだね(笑)たかが40円。されど40円やね
うちの息子も1歳4ヶ月。同じく手癖わるしです将来、いっしょにタッグ組んだら、、、いやいや、あかんあかん!
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2児(♂5歳、♂3歳)の父親です(プロフィール詳細はこちら)

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