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車中にて

hitabon    長男  次男 
2011.05.10   [日記]




 アクセルをゆっくりと踏み込んだ。道路脇では赤や青の花が黄金色がかった陽を浴びて、ゆっくりと呼吸をしていた。

「楽しかったね」
長男はそう私に問いかけ、透明なビニール袋を持ち上げた。中には焦げ茶色のどんぐりが二つ入っている。袋越しから丁寧にそれを観察していた。
「何が楽しかった?」
ハンドルを左にきりながら私は尋ねる。
「おうまがいたでしょ。あと、さるもいたでしょ」視線を左上に向け、ゆっくりと一つづつ挙げていく。「ああ、それとヒヨコを持ち上げたよね」
 胸の前で両方の手のひらを丸め、その上にくしゃっと丸めたビニール袋を載せて見せた。得意げな顔をしている。
「怖くなかったのかい」
「もうお兄ちゃんだから、怖くなかったよ」
 そう答える彼の顔つきは、小さく黄色いそれを持ち上げた時と同じくらい勇ましかった。その様子は3枚程カメラに収めたはずだ。しかしその次の瞬間には、突如大声で啼いた豚に驚いて泣き出してしまった。私はそれを思い出し、黙って苦笑した。

 スーパーマーケットの角を右に曲がる。買い物袋を籠に詰めた女性が、よたよたさせながら自転車のペダルを漕いでいる。
 大きな欠伸が後ろから聞こえた。次男が天井の1点を見つめながら、大きな口を開け、また閉じた。
「お前も今日は目一杯歩いたから、疲れたよね」
 今度は窓の外に写る電線を彼はぼぉっと目で追っているようだった。今日彼は、短い足を必死に振り回し、石畳の広場を行ったり来たりしていた。待ちくたびれた私と長男は、サル山の方に先に行ってしまった。サル、オラウータン、オウムを鑑賞して広場へ戻ってくると、次男は石畳の上を少し躓きながらまだ歩いていた。私と長男の顔を見つけると、笑顔でやはり躓きながら向かってきた。

 赤いポストの角を左に曲がる。携帯電話を耳にあてた男性と目が合いそうになる。
「私、今日の場所好き。また行こうよ」
 レッサーパンダと何かの植物が描かれたパンフレットを読みながら妻が言った。彼女が今開いているページは大方予想出来る。バラ園だろう。まだ季節ではないので閉園中、とのことで、今日その入り口で彼女は肩を落としていた。
「花が咲いた頃に、また来ようか」
「そうだね」そう答えると、傾いた陽の光を左の頬に受けながら、赤に染まっているであろうパンフレットに再び目を落としていた。

 小さな小学校の角を曲がる。自転車に跨った男の子3人が校門の前で大声で話をしている。
 右と左のの太腿が少し痛かった。原因を回想してみる。長男を追いかけて走り回った。次男を抱かかえ坂を駆け上った。まだまだありそうだった。

 あっと思わず声を上げた。カーナビが指し示す道の一つ前で左折した。すぐさまポンという機械音が鳴り響き、大きく迂回してまた元の道に戻ってくるルートが液晶画面に赤い線で示された。
 
 赤信号で止まる。目の前を何台かの車が横切って行った。
 エアコンのごぉという音が、車内に漂っていた。何処か遙か遠くから聞こえてくるかのようにも感じた。
 後ろを振り返る。 

 宝物を詰めたビニール袋を持った彼は、固くそれを握り締めたまま目を瞑っていた。
 窓の外を眺めていた小さな彼は、口を開けたままだらりとした格好で目を瞑っていた。
 バラの香りに想いを馳せていた彼女は、パンフレットを膝に載せたまま目を瞑っていた。

 信号が青に変わる。
 先ほど通った小さな小学校の角を再び曲がった。校門の前にはもう誰もいなっかった。
 私はアクセルをゆっくりと踏み込んだ。

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