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フードコートで僕達が学ぶべきもの

hitabon 
2011.04.21   [日記]

Royal Hawaiian Center / Tezzca


"お前はごみだ"

 高温に熱した鉄の棒のような言葉で殴られ、私は眩暈がした。
 何故だ。何故こんな罵倒を受けなければならないのか。私には到底理解する事が出来なかった。

 1面に張られた巨大な窓ガラスに太陽が真南から光を差し込む頃、ショッピングモールのフードコートで私達家族4人はうどんを食べていた。人の笑い声、食器のぶつかる音、行きかう人の足音。ざわめきが至る所で衝突していた。

「うどん、おいしいかい」

 私の向かい座った長男が、先が少し丸くなっている子供用フォークにうどんを絡ませ、せっせと白く長いそれを口に運んでいる。どうやら私の声が届いていないようだ。

「長男、うどんはおいしいかい」

 声量を上げて再度問いかけた私に、ちゅるりと吸い込んだうどんの汁を飛ばしてきた。そして私の鼻の頭に付いた茶色い汁を見てから、笑顔で頷いた。

 家族皆が食事を終え、私は一人立ち上がる。食べ終えた4人分の食器をフードコートの端にある返却口に戻した。そのまま、うどんの染みが付いた紙ナプキンを捨てるため、ゴミ箱の前に立った。

 ゴミ箱には”燃えないごみ”と書かれた木製のプレートが掲げられている。紙ナプキンは当然燃える。別のゴミ箱を探してこのゴミを捨てなくてはならない。目の前のゴミ箱の裏手を見ると、もう一つ別のごみ箱が背中合わせに設置されていた。
 ふふん、私は鼻をならし回り込む。そして手にした紙ナプキンをゴミ箱の口に入れようとして、思わずその手を止めた。
 そのゴミ箱のプレートに掲げられた文字を見て驚いた。

「燃えろごみ」

 思わず後ろを振り返る。誰もいない。
 どういう事だろう。この"燃えろごみ"と言うのは私の事を指しているのだろうか。しかしそれでは話がおかしい。私は決してごみではないはずだ。将来的にごみと呼称される日が来るかもしれないが、今現在はごみではないという自負がある。必要なら住民票を取り寄せてもよい。
 ただそうなると"燃えろごみ"とは誰に向けられた言葉なのだろうか。事と場合によっては穏やかではない。
 真相を確かめるため、私はゴミ箱に直接話しかけてみることにした。

「こんにちわ。どうして君は"燃えろごみ"なんて汚い言葉を使うんだい」

ゴミ箱は、投入口である木で出来た板を前後にがこんがこん震わせながら答えた。

「ふん、人間なんかに俺の気持ちなど分かるものか」

 思わず私は顔を伏せてしまった。だがすぐに前を向き直し、再び問いかける。

「何があったのか僕に話してくれるかい」

「何があったかだって。お前に何が分かる」

 今度は引かなかった。半歩前に足を踏み出し、私はさらに続ける。

「大丈夫。僕は君の味方だよ」

 沈黙が続いた。
 慣性で揺れ動いていた彼の木の蓋が、ようやく落ち着きを取り戻す。

「いいだろう。人間がどれほど酷い事を俺にしてきたか、お前に教えてやろう」

 彼はゆっくりとした口調で語り出した。

「俺は5年前、沖縄のある町で生まれた。潮風が囁くとてもよい町だった。そして俺は、元々は豪華客船の一部として利用されるはずだった…」
「うんうん」

~中略~

「誤って俺を大阪の工場に送りやがったんだ」
「ふんふん」

~中略~

「気が付くと俺はゴミ箱製造のラインの上にいて、」
「へ~」

~中略~

「俺は本来ここにいるべき物じゃないと必死に叫んだが人間は誰も」
「そんで」

~中略~

「気が付くと俺の体はゴミ箱に変わって」
「ちょっとポテト買ってくる」

~中略~

「それから俺の扱いは酷いもんさ。ある時は、」
「『あ~ごめんもうちょっとかかる。ちょっと五月蝿いのがいて』あ~続けて続けて」

~中略~

「一人俺の事を理解してくれる人間もいた。だがそいつも結局は、」
「お、新しいポケモンゲットした」

~中略~

「そして俺はこのショッピングモールに運ばれた。その時、所長は」
「少し目を瞑るけど寝ているわけじゃないから」

~中略~

「…誰も俺を分かってくれない。ゴミ箱の俺はゴミ以下の扱いだ。俺は自分の」
「Zzz…Zzz…」

~中略~

「だから人間は誰一人信用出来ないんだ!!」

 私は彼をまっすぐ見据え、声を張り上げた。

「甘ったれるな!!!詳しい理由は知らないが"燃えろごみ"とは何事だ!!」

 すぐ隣のテーブルに置いてあるグラスの水が震えた。私は続ける。

「お前がいなかったら、僕はどうすればいいんだ!!ずっとこの燃えるゴミを持ったままじゃないか!!僕が汚いじゃないか!!!!」

 私の大声にフードコート全体が静まり返った。遠くのテーブルの誰かが割り箸を置いた乾いた音が鳴り響いた。
 ゴミ箱の中に私は手を押し込んだ。

「いいか、"燃えろ"じゃない。燃やすんだよ。他の誰でもない。俺達で燃やすんだよ!!!」

 突然、近くで座っていた老婆が立ち上がる。椅子と床が擦れる低く長い音が辺りを包んだ。時が止まった中でその老婆だけが唯一動く事が出来た。彼女から少し離れた場所に私は居ながら、その頬を伝う涙をはっきりと見てとれた。
 老婆はこちらに歩いてくる。そしてくしゃくちゃに丸められたティッシュをゴミ箱に入れた。

「ありがとう」

 老婆の発したその言葉は誰に向けられたものか分からなかった。
 老婆のその一言により、堰を切ったように次々と人々が立ち上がる。スーツを着たサラリーマン、食事をしていた家族、友達同士で遊びに来たのであろう中学生、サンバの衣装を着たブラジル人、科学者に連れられた子供くらいの背丈の灰色の宇宙人、蛙、おけら、あめんぼ。年齢、国籍、生物、銀河系、全てを超え皆が立ち上がった。そしてゴミ箱へ行き、ただ、ゴミを捨てた。汚れた箸を捨てた。食べ残したパンの欠片を捨てた。いらなくなったビニール袋を捨てた。
 僕達はひとつになった。皆がゴミ箱にごみを入れた。ゴミ箱を中心として一つになったのだ。

 皆が手と手を取り合いフードコートを後にする。ある者はゴミのリサイクルを唱え、ある者は有効な資源の活用を唱え、またある者は美しい地球を唱えた。
 誰もが理想の世界を口々にしていた。それは私達の心の中に、この上ない満足感を与えてくれた。

 フードコートには汚れたゴミ箱がただ残った。

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コメント

もうね~「燃えろゴミ」の時点でおかしい!!笑ってしまった~~

コメントありがとうございます

mackyさん
私はいくつになっても熱く燃えていたいです。。。

アラ・ヒィフの私には

『燃えろ』と来れば‘いい女’です。
決して悪いイメージはありません。
(*^-^)b

(^_^; むしろ戸惑うのは…
『萌えるゴミ』と表記された時でしょうか?

コメントありがとうございます

ナイトイーグルさん
>>萌えるゴミ
その場合、何を捨てたら良いでしょうかね…難しいですね…
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