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激闘!!ラーメンオーダー

hitabon 
2010.12.18   [日記]



私はラーメン屋の食券販売機の前に立っていた。

初めての飲食店でのメニュー選びは困難を極める。人生は一期一会。今日訪れたこの店に次はいつ来られるかも分からない。客は知略を巡らせメニューを選び、料理人は死力を尽くしそれに応える。それが飲食店(バトルコロシアム)。


私はラーメン屋の暖簾をくぐり入り口すぐ横に鎮座している巨大な食券販売機と向かい合っていた。黄色や赤の色とりどりのボタンが所狭しと並んでいる。升目上に並んだボタンの一番左上、恐らく人間工学上最も目に入り易い場所、そこには「ラーメン」の文字。さらに黄色いポップが張られており「売れています」。初めての飲食店は魑魅魍魎が潜む光も届かぬ暗黒の大地。そんな暗闇の中に「売れています」という天からの啓示。たったこれだけの文字が道に迷う多くの旅人達にこの上ない安心感を与える。まさに地獄に仏。それならばと、ラーメンを頼む…か?いや…待て……。それこそ罠。何も知らずにひらりひらりと飛んでくる蝶を雁字搦めに絡めとる罠。落ち着け…落ち着くんだ。とりあえず、ラーメン系の全メニューを見てみよう。ラーメン。チャーシューメン。味噌ラーメン。つけ麺。そしてそれぞれに中盛り、大盛りのオプションが用意されている。なるほど。最近ありがちなラインナップと言って良いであろう。この場合私のデータ注文理論によると、ストレートの確率80%。そう、ストレートにラーメンを頼む事が正解である確率が高い。私はラーメンのボタンを押そうと手を伸ばした。

店の奥では使い込まれた銀色の巨大な寸胴から、白い湯気が絶え間なく立ち上っていた。

いや、違う。ちょっと落ち着こう。ラーメンとチャーシューメンの関係を今一度整理してみよう。通常、チャーシューメンとはラーメンにチャーシューが増量されたものだ。チャーシューと言えばラーメンの花形具財。2000円前後のビュッフェタイプのレストランで言うとローストビーフ。夏で言うとTUBE。組み体操で言うと一番上に立つ人。仮にラーメンを頼んだとしてチャーシューがこの上なく美味しかった場合、もっとチャーシュが食せたであろうチャーシューメンにしておけばよかったと後悔する事は火を見るよりも明らかだ。つまり、チャーシューメンを頼むとは「店主、ここのチャーシューは旨いのだろうな?ワシに出してみろ」という一種の強気の姿勢の表れであり、客として最大の攻めに転じられる瞬間でもあるのだ。食券を渡す際にはその強気の姿勢を隠してもよい。ボーカーフェイスでありながら、心中では虎視眈々と店主の首を狙うのも一興だろう。そしてチャーシューメンのベースとなるのは、この店で最も期待値が高いであろうお勧めのラーメン。右手にチャーシューの剣、左手にお勧めのラーメンの盾。まさに攻守一体となった理想系のラーメンと言える。ただし値段は通常のラーメンに比べて跳ね上がる。子供店長にエコカー減税してもらえていたならば新車一台買えるくらいに跳ね上がる。私がチャーシューメンを頼むとなると周りから、お前はアラブの石油王か?という羨望の眼差しで見られるかもしれない。しかしそれでも構わない。俺は石油王になる!!(ドンッ)そう、チャーシューメンを頼めば間違いないはずだ。私はチャーシューメンのボタンを押そうと手を伸ばした。

店のすぐ外を大きなトラックが通り過ぎ、がたがたと店が揺れた。

だが待てよ。攻守一体型のチャーシューメンが理想。これは誰でも至る結論だ。それでいいのか?冒険しなくていいのか?味噌ラーメン。つけ麺。店主がどんな思いでこのメニューを用意しているのだろうか。月が綺麗な円を描く静かな夜。営業時間も終わり誰もいない店内で、店主は一杯の味噌ラーメンをカウンターに差し出した。しかしカウンターの向かい側には誰も座っていない。店主は目を瞑り一人で語りだす。「なあ、セバスチャン…。やっと完成したよ。お前があれほど食いたがっていた味噌ラーメン。生きていたら今日は40歳の誕生日だったよな。お前が南米アマゾンの奥地に探索に行ってもう5年…早いもんだな。………ハッピーバースデー……テューユー。ハピバースデー……チューユー。ナーピバースドゥー…………ディア………セバス……チゥァン…ウワッピュビャースディー……トゥー…ユゥゥゥウゥゥ……。だがな…セバスチャン…5年前……俺がお前にアマゾンで入手してくれと頼んだ割り箸……とんだアマゾン違いだバカやろう!!!」というくらいに、これらのメニューは冒険野郎御用達という位置づけかもしれない。そんな今は亡きセバスチャンのためにも平凡な日常を打ち破り、新しい物を手に入れなければならないはずだ。そして私は味噌ラーメンが好きだ。セバスチャンのことも好きだった。ならば、今日は冒険の日。味噌で冒険。この世はでっかい宝島。私の弟、諸君らが愛してくれたセバス・チャンは死んだ、何故だ! 国民よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ国民!味噌ラーメンは諸君等の力を欲しているのだ。 ジーク・味噌!!私は味噌ラーメンのボタンを押そうと手を伸ばした。

アルバイトらしき店員が笑顔でカウンターを掃除していた。

でも…だめ…だ。私には冒険できない。ボタンを押そうとすると、どうしても妻や子供達の顔が浮かんでしまう。もう私には家族がいるんだ。おいそれと無茶は出来ない。じゃあやはりチャーシューメ…いや最後の選択肢、つけ麺。しかし私にとってつけ麺は鬼門と言っても過言ではない。近所のつけ麺が美味しいと評判のラーメン屋では頻繁につけ麺を注文している。私はその店で初めてつけ麺というものを食べ、つけ麺とはこんなに旨いものかという事を知った。それからは他の店でもちょくちょくつけ麺を頼むようになった。だがどうも他の店のつけ麺は旨いと思えない。そのせいで他店でつけ麺を頼むことに億劫になっていた。子供とボール投げをしていて、ボールがあらぬ方向に飛んで行った時にそれを取りにいくのも億劫になっていた。ファミリーマートで財布の奥深くに紛れ込んでいるであろうTポイントカードを取り出すことにも億劫になっていた。しかし…この店のつけ麺はどうだ…?私は店主を一瞥した。なにやら作業中のようだ。「つけ麺、どう?」私は心の中で、昼下がりにお洒落なカフェでOL同士が温かい低脂肪乳のミルクティーを飲みながらもうすぐクリスマスという事を意識しつつ最近彼氏がいるのかどうかの探りを含みながら近況を聞くように呟いた。店主は何も答えない。どうして何も答えてくれないんだ!聞こえているんだろ、私の心の声を?本当は私はサトラレなんだろ!?はっきり言ってくれよ!!…と、こんな事をしていても始まらない。ここでつけ麺を選ばなければ、私はこの先、他の店で一生つけ麺を選べないかもしれない。自分の殻を破るんだ。ラーメン、つけ麺、僕イケ麺!!イケ!イケ!ゴー!ゴー!ジャンプ!!私はつけ麺のボタンを押そうと手を伸ばした。

通行人が窓からちらりと中を覗きこみ、そのまま何もなかったように去って行った。

やはり駄目だ。あの店以外のつけ麺は旨くないという悪夢をどうしても払拭することが出来ない。もう他の店でつけ麺を食べられなくても構わない。つけ麺はやめよう。では一体何を頼めばいいのだ…?ここは物事を最初から考えてみよう。私が悩んでいるのは何だ?ラーメンの種類だ。もっと正確にいうならば、ラーメンのスープの種類と言っても良いであろう。ここまで悩むのならいっその事、麺だけ頼めば良いのではないか?メンタンピンドラドラ!!!いやいや、ドラがのるか否かも不確かだし、そもそもそれでは焼きそばだ。恐らく焼かれてもいない。焼きそばは何というかもっとこう…地獄の業火で焼かれていないと美味しくないというか…もうこのまま家に帰るか?貴店の今後のご活躍をお祈りして帰ってしまうべきか?それも駄目だ、今日はラーメンの日。ラーメン曜日。モミジマンジュウ!もうボタンをいっぺんに押して天に任せ…やっぱり駄目だ。主体性のない30代という特集をNHKで組まれてしまう。この時、私は思い出した。中学生の頃の予備校の英語の講師の言葉を。英単語Engineerを教壇の前で発音した際の声があまりにも大きすぎて、授業中にも関わらず私がびっくりして思わず席で飛び跳ねてしまったあの英語の講師の言葉を。「テストの選択肢問題で悩んだら、悩む前の直感で決めた答えの方が正答率が高い」私は再びラーメンのボタンを押そうと手を伸ばした。

その時だった。

「大丈夫ですか?」
見かねたアルバイト店員(仮称:ジーパン)が尋ねてきた。ばか!大丈夫か大丈夫ではないかの2極で考えるならば大丈夫なはずがない。君が話しかけてくる直前までは大丈夫だった。だが君の一声で私の決心が揺らいだ。やってくれたな、まったく見えなかったよ、君のその黄金の左腕。見事に俺の顎を打ち抜いてくれたな。ぐにゃぐにゃに揺れる世界の中、私はなんとか答える。
「ええ、大丈夫です。やっぱりお勧めはラーメンですかね?」
ばかばか。お勧めはラーメンですかね?って、ばか。書いてあったじゃないか。自分の目で黄色のポップを確認したじゃないか。何故そんな事を聞いているんだ。
「そうですね」
と、ジーパン。はい予定調和。しかし私もこのまま引き下がれない。
「やっぱりね」
もう自分でも何に言及しているのか分からない。
厨房の方がにわかに騒がしくなった。まさか私とジーパンの今のやりとりを聞いて、ラーメンの準備を始めたのか?この客はラーメンを頼むと高を括られたか?

私は素早く販売機のボタンを押した。かたんと小さな音を立てて切符サイズの白い食券が1枚出てきた。あえて文字が書いてある方を裏側にしてジーパンに渡す。恐怖に慄くがよい。これが俺の答えだ。ジーパンは慣れた手付きで食券を受け取ると、表側をちらりと見た。その瞬間、彼は驚愕のあまりに腰が抜け、地べたにへたりこんだ。そして私の顔を見上げながら「ラ、ら、らー、ラ」と取り乱し、そのまま後ずさる。私はそんな彼に目もくれず、黒いロングコートをなびかせその脇を通り過ぎた。そしてカウンターに座り足を組むと、ほおづえをつき微笑した。ジーパンは服の胸のあたりを左手でぎゅっと掴むと声を振り絞り叫んだ。

「て、て、て、店長!!…ラ…ライスはいります!!!!」



※実際はラーメンを美味しく頂きました


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コメント

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No title

ライス・・・?
そりゃ腰も抜けますわ~。
なんて意地悪なお客(笑)

私も接客していますが、お客様に「オススメは?」って聞かれて
ちゃんと答えたのに、違うもん注文されたことあります。

吉本ばりにずっこけましたよ。

アマゾン違いww
チャーシューメン頼んで友のラーメンと見比べたらチャーシュー2~3枚しか差が無いという苦い経験を味わった事があります

No title

これだけ悩んで結局ライスww
店員さんもノリがいいっていうか^^;

>通行人が窓からちらりと中を覗きこみ、
>そのまま何もなかったように去って行った。
でつけ麺をやめるところがツボでしたw
悩んだ末に周りのなにかに邪魔されてやめるっていう><w

むしろ食券販売機の前でそれだけ悩んでいるほうが恥ずかしいですよw

コメントありがとうございます

だいぶ期間が空いてしまいすいません。年賀状作ったり、年賀状作ったり、年賀状作ってました。
(どんだけ作ってんだよ、という話もありますが)あとは家にある本を電子書籍化して、本の山だった押入れが日に日にすっきりしていくのが快感だったりした感じでした。
次は24日に更新出来たらなと思います。

ときこさん
>>私も接客していますが、お客様に「オススメは?」って聞かれて
ちゃんと答えたのに、違うもん注文されたことあります。
その方は複雑な計算式によって注文を決めているのかもしれませんねw

雅さん
年をとるにつれて、チャーシュー麺じゃなくてラーメンでいいかな、という弱気な場合が多くなった気がします。。。

無花果さん
>>むしろ食券販売機の前でそれだけ悩んでいるほうが恥ずかしいですよw
悩みすぎて、後からきた客に順番を譲って先に購入してもらう場合もありますw
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