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対峙する私の中の筋肉痛

hitabon 
2011.02.10   [日記]



 私は走っていた。とにかく走っていた。

 電車の発車時刻まで残り10分。とにかくぎりぎりだった。スーツの前ボタンを全開に、ネクタイ緩め、通勤鞄を脇抱え、ひたすら走った。午後2時とはいえ刺すように冷たい冬の大気の中、断続的かつ絶え間なく私の口から白い炎が吹き上がっていた。

 本格的な運動をほとんど普段しない私の体は当然悲鳴を上げる。脇腹がきりきりと痛くなってきた。学生時代はマラソンをする際にこの痛みとよく戦ったものだ。いかにこの痛みを押さえてゴールまで走り抜けるか、それが私にとってマラソンの醍醐味であり、嫌いな部分でもあった。そして体に現れる反応のもう一つは筋肉痛だ。筋肉痛は運動のあとしばらくしてからやってくる。また運動後から筋肉痛が発現するまでの期間が年をとるにつれ長くなってくるという話を聞いたことがある。運動という点から言えば、私も既にそれほど若くはない。そのため、だいぶ期間をあけて私の筋肉痛は襲ってくるのであろうことは明白だ。

 しかし今回ばかりは少し様相が違っていた。走りながら筋肉痛になっていたのだ。「数日遅れてやってくる筋肉痛が年をとった証なら、リアルタイムで筋肉痛になるのは若い証拠なのでは?」そんな考えが頭をよぎる。「いや、待てよ。この筋肉痛は一ヶ月前に息子とジャングルジムを登った時のものではないか?今日のこの走りに触発され筋肉痛工場がようやく重い腰を上げて筋肉痛を出荷したのではないか?」そんな思いも沸き上がってきた。「んなこたぁない」黒いサングラスを掛けた誰かが頭の中で私に突っ込んだ。苦しさに顔を歪めながらも、口元をにやりとさせ私は走っていた。

 私の体から大量に発せられた熱は、私の5cm周囲をサウナの中にいるような状態にした。暑い。「真冬の裸祭り」深い意味はないがそんなフレーズが思いついた。それと同時に一つ困った問題が持ち上がった。足が攣りそうだ。一歩足を前に踏み込む度に微弱な電流がふくらはぎに走っていた。私の体が警告しているのだ。"コレイジョウ ムチャスルト ドウナッテモ シラナイヨ”。しかしここで歩みを止める訳にはいかない。次の電車に乗り遅れると大切な打ち合わせに遅れてしまうのだ。”ぼくは どうしても いかなくては ならない”

 なぜこんなぎりぎりの状況になってしまったかのか?苦痛に呻きながらも色々な要因を私は頭に巡らせていた。いや、やめよう。誰が悪いかはもはや問題ではない。ただ、今次の電車に乗らなくてはならない。それだけだ。打ち合わせの時間を間違えて私に伝えた上司が一番悪い、そんな事を考えるのは止めよう。

 ホーム全体に発車ベルが鳴り響く。荒々しい足音と共に電車に滑り込んだ。安堵の溜息をつく。そして目の前の席に無造作に座り、額や首の大量の汗をハンドタオルで拭った。向かいに座っていたサラリーマンが怪訝そうな顔で私を一瞥した。私は、やり遂げた自分に対する笑みを堪えるのに必死だった。それと同時に、私の膝は隠すことなく笑っていた。


 次の日。会社。前日の走りながらの筋肉痛が引き続き、下半身全体が痛かった。ただ歩くことさえ辛く、昨日より明らかに酷くなっている。何処へ行くのにも足を引きずらなくてはならなかった。
「hitabonさん、今すぐ会議台に来てもらえますか?」
会社でそう問いかけてくる後輩に対して、次のように私は答えるしかなかった。
「じゃあ、これから会議台に向かってみるけど、時間がかかるかもしれないから先に話を進めておいて…」
人は過ちから学ぶ事が出来る。普段からもっと運動をしなければならない、私は心に強く誓った。しかし人は忘れる事も出来る。この痛みがひいた時、おそらくその誓いを私は忘れているであろう事は言うまでもなかった。

 その日の昼休みは携帯電話へ珍しく母から電話がかかってくる。デスクで電話を受け、二言三言母の声を聞くと私は立ち上がった。どうやら日々の愚痴のようだ。長丁場になりそうだった。私は体を引きずり社内の休憩室に行き椅子に腰かけ、受話器から聞こえてくる故郷の喧騒とでも言うべきものに付き合った。
 50分経った。電話がかかってくる前はまだよちよち歩きだった赤ちゃんが、今や立派な大人に成長している、そんな錯覚さえ覚える長さだった。おそらく私の顔からは生気が失われているだろう。その時、始業を告げる音楽が社内に鳴り響いた。助かった。携帯の受話器を高らかに上げ、その音色を母に送った。そして仕事が始まるからと告げ携帯を切る。昼休みの間「うん」と「そうだね」しか発していなかった。時折付け加える「ほんとに」が会話に微妙なアクセントを与えていた。それでも母が満足なら、それはそれで良いのであろう。携帯を片手に重い体を持ち上げ、自分のデスクに戻ろうとした。

 その時、衝撃の事態が私を襲った。「ありえない」思わず私は呟いた。隣に座っていた同僚が私の方を驚いて振り向いたが、携帯を持った自分の右腕を私はただ呆然と見つめていた。そんな……どうして。震える足で立ち上がる。こんな事が許されるのだろうか。たったこれだけの事で。左の拳を固く握る。不安、悲しみ、様々な想いが混じった何かが私の瞳から流れ落ちた。一体この先わたしはどうなってしまうのだろうか。

 今度は右腕が筋肉痛になっていた。

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コメント

hitabonの世界

こんばんは
お初です。一気に読んで、笑ってしまいました。
また、お寄りします。  (^.^)/~~~

No title

復活おめでとうございます!!

私も風邪ひいて咳が止まらなかった・・・
ただそれだけでお腹筋肉痛になりました(笑)

普段運動していないとそんなもんですよ。

それより、筋肉痛って工場で作られるんだ~。
どんな職人さんが作ってるのかな~。
妄想が膨らみましたよ♪

コメントありがとうございます

フィスティーさん
>>お初です。一気に読んで、笑ってしまいました。
こんにちわ。はじめまして。
いつでもいらしてくださいませ!^^

ときこさん
>>どんな職人さんが作ってるのかな~。
最近は海外に?工場が移して人件費を浮かしているかもしれないですねw
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