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雨に流されたメロディーと僕の叫び

hitabon 
2010.09.01   [日記]



 その時、誰かが私に語り掛けてきた。

 男とも女とも誰とも分からぬ声。家族全員が寝静まり時計の針達が丁度真上を指す頃、私は自宅のパソコンの前で辺りを見渡した。
 キーボード。マウス。イヤホン。
 机の上に無造作に置かれたイヤホンから、それは微かに聞こえていた。そっと耳に当てる。懐かしいメロディーが私の中に流れ込んでくる。私は静かに目を閉じてみた。

 雨が降っていた。

 中学生の僕は自宅の部屋にいた。6畳の小さな部屋の中は雨の匂いが充満している。学校から帰った僕は制服のままベッドの上で胡坐をかいていた。僕の向かいには父から譲り受けた小さなCDラジカセ。ベッドの上で向い合っている僕とCDラジカセの間を、だらりと伸びたイヤホンが繋いでいた。部屋は既に薄暗かったが、無表情な僕は電気を付けようともしない。そして、無表情なラジカセの小さな液晶の光だけが、僕の顔を照らしていた。
 僕はあの曲を聞いていた。
 ZARD「雨に濡れて」
 自分の小遣いで初めて買ったアルバムの曲。初めて聞いた時は何とも思わなかった。しかし何気なく雨が降っている日に聞いた時から、お気に入りの曲となった。何故だか理由はよく分からない。きっと僕の心を司る部分に、この曲の何かが触れたのだろう。
 雨が降ると、僕は学校から帰り部屋でこの曲を一人聞いた。初めは歌詞の情景を思い浮かべていた。恋人との別れの切なさを想う詩だった。だが次第に、様々な事柄を考えるようなっていった。将来に対する不安。自分自身に対する鬱積。好きな女の子への憧憬。僕は向かいあって座っているラジカセに無言で、懸命に、何度も言葉にならない何かを訴えた。それに応えラジカセは何度でもこの曲を僕に届けてくれた。
 窓ガラスはいつも無数の涙を流していた。そして僕の色々なものが必死に詰め込まれた叫び。それは雨が降るとこの曲と共に何処かへ流れていった。

 雨が止んだ。

 静かに目を開けると、私は再びパソコンの前にいた。時計の針は少し傾いていた。イヤホンを外して目の前に置く。もう何も聞こえてこない。
 グラスの氷がからんと大きな音を立てる。静寂に包まれた部屋の中、私はあの頃の僕を懐かしくも、恥ずかしくも、愛おしくもあった。イヤホンをそっと掌に乗せた。右と左。それらはじっと私を見つめている。

 先程聞いた誰かが語り掛けてきた声。
 それは何年もの時を超えた僕自身だったのかもしれない。

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コメント

No title

思い出とリンクする瞬間ってありますよね。
 
私の場合、CDで言えば
「野球選手が夢だった」というKANのアルバム
高校生の頃、大好きだった女の子に貰ったCD
 
「 4曲目と10曲目が好きだから 」 
 
と貰ったCD

 
数年後
 
「 俺は3曲目と9曲目が好きだったなぁ 」
 
「 うん、私も3曲目と9曲目が好きなだった 」
「 でも、そうは言わないズルイ女だったから 」
「 私達は付き合わないほうがよかったの 」 

彼女の本心は今でもわかりません。

今でもCDはたまに聞きます。

こんばんは

なんか…小説みたいですごく素敵です。
頭の中で風景を思い描く事が出来て、なんだか切ないような、昔そんな気持ちになったような上手く言えないけど そんな感情が湧いて来ました

思い出とリンクする瞬間、胸がキュンとしますよね。なんだかいい小説を読んでるみたいでした。
hitabonさん、引き出しが豊富ですね?

音楽もそうだけど、風に乗って香る花のかおりや香水に…「あっ」と思うことも多くあります。

コメントありがとうございます

マッキさん
>>彼女の本心は今でもわかりません。
私もしばらく考え込んでしまいました。
ちょっと難しいですね

あちりゅんさん
ありがとうございます。皆さん色々な葛藤を乗り越え、大人になっていくのですね

美月さん
>>hitabonさん、引き出しが豊富ですね?
引き出しは多くないです^^;

>>音楽もそうだけど、風に乗って香る花のかおりや香水に…「あっ」と思うことも多くあります。
人は五感それぞれに自分の記憶を残しておけるのかもしれないですね

雨・・・

雨の歌と言えば、
「雨」森高千里
高校生の時に大失恋した何度も聞いた歌がこれ。
今も聞くと、あの時の頃が蘇ってきます。
「はじまりはいつも雨」ASUKA
これは、当時付き合っていた彼と一緒に一泊で遊びに行ったときに車で聞いていた歌。
とても、ドキドキしながらの楽しいドライブだったなぁ~。
その彼は、となりに居る主人です。

No title

ちょっと変わった娘だったんですよね。
自分のブログには書きにくいので、ちょっとだけ書かせてください。
 
その女性は高校を卒業してすぐに結婚(先輩と)し出産
「 ズルイ女だから 」 の言葉は彼女が20歳になった頃に聞きました。
その時、彼女は離婚をし、1人で子供を育て、自分も大きな病気をして大変な状況でした。 

その話を聞き、4回目くらいの告白… 
「 私も好き、きっと楽しいと思う…でも付き合えない 」
ふられました…。
   
私は貯金をおろし、彼女に使って欲しいと手紙を添えて送りました。
 「 きっと怒るかもしれない、でも一緒に居られないなら、これしか出来る事が無いから 」
そお書いた手紙を見て、彼女は私に会いに来ました。
 
「 怒ると思ってるのにやるなんて、変わらないね 」
「 そおやって、誰にでも優しいからあなたとは無理だったの 」
「 私が結婚した人は私以外は友達も居ない人だったでしょ? 」
「 お金は受け取れない、私はなんとかなるし、お金を貰ったらパパみたいになっちゃうよw 」
「 きっと、あなたとなら幸せになれたと思うけど、それじゃダメなの 」
「 お母さんにもマッキさんにしなさいってさんざん言われたけどね 」
 
それから4年後、私は今のカミさんと結婚
交際期間は2週間w
 
最後に話をしてから16年、彼女を見かけたのは数回(帰省かな)
話はしてません、今年の夏に赤ん坊を抱いてるのを見かけました。
もう一度家庭を持ったのかな…  
 
幸せになって欲しいと心から想ってます。 


駄文すみません、いつかどこかに書き残したい事でした。 
うちのカミさんはヤキモチ焼きなもんで^^;

コメントありがとうございます

ポテさん
>>その彼は、となりに居る主人です。
ご主人との思い出の曲。そのメロディは、お金では買えない一生の宝物ですね。

マッキさん、ありがとうございます。

拝見させて頂くと、その彼女が何を想っていたか色々と考えられますが、それをどうこう言うのも無粋なのでやめておきます^^;
そして、マッキさんの真摯な気持ちに心打たれました。最終的にお互いの気持ちが同じ方向へ向かなかったとしても、それぞれ向かった先で幸せになっているといいですね。

ありがとうございました。上手く言葉では言えませんが、私自身も色々と考えることが出来ました。

No title

思い出にリンク・・ってありますね。
先日私はイチジクを食べながら、子供の頃、お隣の家になっていた
イチジクのことを思い出しましたよ。
あのイチジクの方が何故か美味しかったな・・
思い出というのは常に美しくデフォルメされやすいものだから、味もいいのかな?

コメントありがとうございます

sionさん
>>思い出というのは常に美しくデフォルメされやすいものだから
思い出の美化は、人に優しくも時として残酷な場合もありますね
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