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港町の夜は異国の雰囲気に包まれて

hitabon    長男  次男 
2011.09.01   [日記]



 潮風が、遠くに浮かぶ船の汽笛と共に、赤い煉瓦に染み渡る街。私達家族は、横浜に遊びにきていた。時刻は既に18時を回っている。私は、予約していたホテルの駐車場に車を停車させた。

「お父さん、今日はおうちに帰らないの?どこに泊まるの?」

 3歳の長男がこちらに身を乗り出して、質問を浴びせてくる。家族で遊びに行く際は、大抵は午前中に子供達の朝ごはんを急がせ、身支度をして、それから家を出る。そして、遅くても17時頃には家に戻ってくる。今日は、いつもと違う場所、違う空気に、彼は体を震わせ、辺りを見渡していた。

「今日はここのホテルに泊まるんだよ。だから、おうちには帰らないの」
「ええ~ホテルに!?ホテルってすごいの?強いの?」
「それは強いよ。お父さんがゴムゴムの実を食べて、ラバーメンになっても、このホテルには到底敵いやしないさ」
「えぇ!お父さんよりも強いんだ。僕と次男は大丈夫かな」
「大丈夫。ほら、かまいたち、ホテルに入るぞ」

 家族の着替えが入った黒い大きなぼすとんばっくを私が持ち、子供達のサンダルや靴を妻が持ち、買ってあげたばかりのカーズのミニカーを長男が持ち、 諸行無常の響きを次男が持ち、ホテルの入り口をくぐった。くりいむ色をしたタイルに足を踏み入れると、すぐさまホテルの受付の男性がやってくる。

「いらっしゃいませ。お荷物をお持ち致します」

 私は、どうも他人に荷物を持ってもらう感覚が備わっていない。申し訳なく、恐縮してしまう。特に今回に限っては、たいした重い荷物でもない。ただ、断るにも完全な是があるとは思えない。このホテルの男性は、今この時点では荷物を持つことが仕事なのだ。彼の立場も当然考えなくてはならない。
 そこで私は、次男の持っていた諸行無常の響きだけを手渡す事にする。彼は、笑顔でそれを受け取るとぶつくさと平家物語をつぶやきながら、フロントデスクへと向かっていく。

「ねえ、お父さん。あの人、親切だね」
「そうだね。ホテルマンと高嶋ファミリーはみんな親切なのさ」

 私がチェックインを済ますと、すぐに部屋へ通された。

 格安料金のホテルのため、お世辞にも大きな部屋とは言えなかった。長男、次男とも、最近はただただ走り回るのに熱心であったが、この部屋の中ではそれも憚られた。私達は一休みしながら、綺麗な花が生けられていた隣にある液晶TVを見ながら談笑する。

 暫くすると妻が立ち上がり、
「ほら、お父さんに長男、次男。今日は先にホテルのお風呂に入って」
と、私達を促した。

 風呂は、当然大浴場があるはずもなく、部屋の備え付けに限られていた。まず私が、風呂場と思われる扉を覗いて驚いた。所謂、欧米式の風呂、トイレ、洗面所、一体型であった。

「お父さん、お風呂入ろうよ」
「ああ、入ろう。だが、ちょっと待ちなさい。お父さんが呼んだら、入ってきて。だから、それまで待ってて」

 私は、一人この風呂場の個室に入ると、扉を閉めた。大きく深呼吸をする。私は、この風呂、トイレ、洗面所、一体型の風呂は初めてだった。

 噂には聞いていたが、よもやこんな風貌をしていたとは、驚きよりも寧ろ感動に近い感情を覚えた。風呂に入る前に、一つ確認しなければいけない事がある。
 どの設備が風呂か、だ。
 私が以前聞き及んでいた資料によれば、この空間内にトイレ、風呂、洗面所が設置され、それらが三位一体となり一つの部屋を成しているはずだ。まずは落ち着いて、風呂がどれかを見極めよう。

 まず、風呂とは何か。
 最低限の条件としては、お湯が流れることだ。そこに考えが至ると、すぐにこの部屋に入ってすぐ脇にあった設備が風呂であろうと、目星をつけることが出来た。理由は簡単だ。風呂の脇に、『シャワー』というボタンと、お湯の温度を調節できる摘みが設置されているからだ。欧米式の風呂は、蛇口を操作するのではなく、ボタン操作でシャワーを出すとは、何とも進んでいる。さらに驚くことに、お風呂の蓋を開くと、すでに水が張られていた。このホテルの気配りにも賞賛に値すると言ってよいであろう。

 私は服を脱ぐことにする。床はあまり清潔な感じではなかったため、脱いだ服の置き場に困ったが、運よく部屋の置くに大きな窪みがあるので、そこを脱衣所として使用し、服もそこに置いた。
 ここで、いざ風呂に入ろうとした時、あることに気が付いた。風呂のサイズが小さ過ぎるのではないだろうか。水が貯められている部分は、片足を入れるだけで精一杯で、全身まで浸かるには到底広さが足りない。そしてもう一つ奇妙な点もあった。先ほど、小さな摘みを弄り温度調節をしたはずだが、事前に張られていた水は、まだ温まっていないようだ。どういうことだろう。さすがにすぐに温まるとは思えないが、温められている兆候が見られない。

 もしかして、これは風呂ではないのではないだろうか。私は、もう少しこの風呂と思われる設備を調査してみることにする。そういえば、何故かこの風呂は2重の蓋がされていた。一つは風呂全体を覆う蓋。そして二つ目は、これは非常に奇妙なことだが、風呂の外枠のみを覆うような卵型のCの形をしていた。
 試しに、二つ目の蓋に触れてみる。ほんのりと暖かい。何故だろうか。丁度腰を掛けるのに良さそうな高さに設置されているが、風呂の外枠が暖かくなる理由が分からない。いや、待て。そうか、なるほど、この熱を利用して、風呂の水を温めるのか。

 まだ水が温まるまで時間が必要そうだ。私は風呂の前で、裸の状態でしばし待つことにする。私が風呂を眺めていると、さらに新たな発見があった。どうやらこの風呂は、子供と大人で切り替えが可能なようだ。風呂の奥側に設置されているレバーに『大』と『小』と記述されている。しかし、何を切り替えるのだろうか。風呂自体の大きさは当然変えようがない。すると、水の量であろうか。私は試しにレバーを引いてみることにする。大人用の「大」と書かれた方向にレバーを引く。

 あ。思わず声をあげてしまった。大きな音と共に、せっかく温めていた水が全て流れてしまったのだ。すぐさま、風呂の水は自動的に補充されたが、また元の冷たい水に戻ってしまったようだ。状況から察するに、先ほどのレバーは風呂の排水用レバーであったと考えられる。当然、大人用、子供用という意味ではなかったのだろう。

「お父さん、お風呂まだ?」
「ちょっと待って!」

 部屋の扉を隔てた外から、長男の声が聞こえた。どうしたものか。もうあまり時間的に猶予がない。ええい、水のまま入ってしまおう。

私は片足をあげて、風呂の中に足を・・・

 いや、待て。
 どうした事だろうか。理由は分からないが、どうしても足を入れてはいけない気がする。目の前にある設備が風呂である事は間違いないのだが、私の本能が絶対にそれはしてはいけないと言っている。どうすればよいだろうか。

「お父さん、僕、お風呂入るよ?」
「いや、まだだ!まだ来るな!!」

 これは風呂なんだ。私は、これから風呂に入って汚れを落とすんだ。さあ、踏み出せ。風呂に、足を、踏み出せ。


風呂っていいよね。
泡がもこもこやねん。
風呂に入ると長生きするって知ってた?
風呂って不老から名前が採られたんだよ。
なんちゃって、そんなの
U・N・O
はい、わいの勝ちや


 私は色々考えて、一つの結論に至った。今日は風呂はやめよう。何故か分からないがリスクが高すぎる。

 その代わり、奥の脱衣所もどうやらお湯が出てくるシャワーのようなものも付いているので、それでお湯を浴びてシャワーを浴びた気持ちになろう。そう、私は危険に敢えて身をさらさない。さらすのは、自分の夢への扉だけ。それが男のだんでぃずむ。

 全てを終え、浴衣に着替えた私は、部屋の窓から煌びやかなライトに包まれた街の景色を見た。

「明日は、中華まんをトリプルで買おう」

 そんな事に思いを馳せながら、火照った体に潮風を当てた。

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コメント

No title

よかった…

本能に従って行動するって、大切な場合もあるんですね。

コメントありがとうございます

すばるママさん
文化の違いは恐ろしいです。
いやほんとに、欧米式のあの風呂は、どうやって使うべきものかよく分かりませんでした^^;

久々

hitabon節を見た気がします。

脱衣した服を置く窪みの底に栓が在ったハズですが…お湯を貯める事に気づいて貰えず、残念です。

コメントありがとうございます

ナイトイーグルさん
>>脱衣した服を置く窪みの底に栓が在ったハズですが…お湯を貯める事に気づいて貰え
あれって、お湯を貯めていいところなんですか?まずお湯に浸かって、その後栓を抜いて、水を抜きながら体を洗うのがベストなのでしょうか・・・?(まさかのマジ疑問)

どうやら

あまり「お湯をためる」感覚は西洋人は無いみたいです。
シャワーが主体みたいですけど…

映画などでたまに西洋人が湯船に浸かる時って…バスタブがアワアワで…バスタブの中で体を洗って…湯を抜きながらシャワーで体の泡を流して出て来てますよね??

(__;)゜。゜。゜?
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2児(♂5歳、♂3歳)の父親です(プロフィール詳細はこちら)

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